ヨガ歴7年の医師が解説!ヨガが身体と心に及ぼす本当の効果とは?【フィジカルヘルス編】

昨今のヨガブーム。最近では女性だけでなく、男性の姿もみられるようになりました。皆さん、どんな効果を期待してヨガを始めているのでしょうか?

ネットで【ヨガ 効果】と検索すると、「血流改善」「代謝アップ」「免疫力アップ」「リンパの流れが改善」「内臓の活性化」など色々なことが書いてあります。けど、これって実は、医学的にはとっても曖昧な表現なんです。また、「姿勢が良くなることで脂肪のつきにくい身体に」といった根拠のない解説もよく見られます。
ヨガには素晴らしい効果が沢山あります。『何となく身体にいいもの』で片付けられてしまうのは勿体無い!
そこで今回はヨガ歴7年目の医師として、ヨガが持つ本当の効果を解説します。

そもそもヨガって何?

ヨガの成り立ちと種類

ヨガ(Yoga)は古代インド発祥で、数多くの種類があります。姿勢(Asana)、呼吸法(Pranayama)、リラクゼーション、瞑想(Meditation)などいくつかの要素があって、どれを強調するかによって細かく分類されています。例えばよく耳にする「ハタ・ヨガ」は、肉体的な姿勢(Asana)と呼吸法(Pranayama)に重点を置いた流派です。

医療への応用

ヨガが治療的介入(セラピー)として注目されるようになったのは20世紀前半と最近のことです。身体のエクササイズとなる姿勢・ポーズ(Asana)は柔軟性や調和性を高め、筋力を増加させます。また呼吸法や瞑想法の習得は、アウェアネス(気づき)を高め、不安を軽減させる効果が期待できます。特に瞑想法を起源とするマインドフルネスについては近年研究が進み、マインドフルネス認知療法としてうつ病の再発予防にも活用されるようになっています。
ヨガについてはまだ医療分野での効果について注目されてから歴史は浅いですが、身体や精神に及ぼす良い影響について沢山の研究がなされています。

ヨガの本当の(医学的な)効果とは?

では今までの研究で示されているヨガの本当の効果とは何なのでしょうか?
この記事ではエビデンス(論文)をもとに、ヨガが人の身体に及ぼす効果について網羅的に解説します。ヨガを実際に行なっている方、これから始めてみようと思っている方、必見です。

フィジカルヘルス

ヨガはメンタルヘルスに対するいい影響をもたらすことが有名ですが、実はフィジカルな面でも非常にいい効果が期待されています。身体機能を向上させるだけでなく、いくつかの症状にも好影響が期待できることが分かってきました。今まで研究されてきたフィジカルヘルスに対する影響について、網羅的に解説します。

フィットネス

身体機能

5つのRCTを含む10の研究を分析したレビュー研究において、ヨガが歩行機能、バランス感覚、身体の柔軟性、身体の屈強度を向上させ、体重を減少させる可能性が指摘されています。研究者たちは特に高齢者において、身体活動性の向上やそれによる自尊心の向上が期待できるとしています。まだエビデンスの質・量として十分ではありませんが、激しい運動が難しい高齢者や妊婦の方が身体機能を維持するための方法としてヨガが活躍する可能性があります。

RCTとは?
RCTとはランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial)のことで、客観的に治療効果をみるために優れた信頼度の高い研究の方法です。医学の世界では論文があれば根拠が十分ということにはなりません。『RCT』や『メタアナリシス』という研究だと、ある程度以上の信頼度があるという目安になります。

自律神経

ヨガが自律神経に与える影響について調べた42の研究(9つのRCTを含む)のほとんどにおいて、ヨガが交感神経/副交感神経の活動や迷走神経機能に影響をもつことがわかりました。具体的には、交感神経の活動を抑制し、迷走神経(副交感神経)の活動を高め、自律神経システムのバランスを交感神経優位から副交感神経優位に変化させることがわかりました。ストレス社会を生きる私たちは多くの場合交感神経が過剰に活動してしまっているため、意識的にリラックスした状態を作ることはパフォーマンスを維持する上で不可欠になっています。
ただしこれらの研究では短期的な影響をみているだけなので、今後は長期間ヨガを続けた場合にどの程度効果が持続するかを示す研究が期待されます。

心肺耐久力(Cardiovascular Endurance)

主に若年者やアスリートを対象にした研究において、数ヶ月から数年間に及ぶヨガトレーニングを行うことで心肺の耐久力が向上することが示されました。全身持久力を高めたい方は、長期間に渡ってヨガを継続することで目標を達成できそうです。

心臓や肺の健康

高血圧

ヨガと血圧の関連を調べた37の研究を分析すると、そのほとんどで収縮期血圧/拡張期血圧両方の若干の低下が示されました。しかし非常にバイアスの多い研究になっていることから、ヨガの影響だけで血圧が下がると示せる十分なエビデンスはないのが現状です。
むしろホットヨガやハードなヨガを行うことは、高血圧患者にとって脳卒中リスクなどを高める可能性もあります。「高血圧の方にはヨガがおすすめ」といった記事はよく見かけますが、積極的には推奨されない(効果も大きくは見込めない)と言えそうです。高血圧の方は無理をせず、まずは減塩や軽い有酸素運動に取り組むようにしましょう。逆に健康な人であれば、副交感神経優位になることによって高血圧の予防が期待できる可能性はあります。

肺機能

健康な人がヨガを行った場合に呼吸のコントロールやリラックスのテクニックが向上すると主張する論文はいくつかありますが、その結果は一致していません。また、喘息や慢性気管支炎の患者さんがヨガをしたら症状がよくなるのではないかという仮説でいくつかの研究がなされていますが、今のところ十分なエビデンスはありません。ヨガを行うことは、肺機能を高めることにはならないようです。

代謝機能と内分泌機能

糖代謝(Glucose Regulation)

ヨガが糖代謝に及ぼす影響について調べた複数の研究(2つのRCTを含む)において、ヨガがインスリン抵抗性を改善させる可能性が示されていますが、十分なエビデンスはありません。また空腹時血糖(糖尿病の指標の1つ)についても、改善を示す研究とそうでない研究の両方があり、結果が一致していません。これらは、研究の対象になっている人の健康状態にばらつきがあるためと考えられています。

ヨガが糖尿病の原因となる糖代謝異常を改善する可能性はありそうですが、エビデンスについては現状不十分といえます。高血糖を指摘されている方は、ヨガよりも食事内容の工夫や有酸素運動を優先した方がいいかもしれません。

インスリン抵抗性とは?
インスリン抵抗性とは、身体の中で唯一血糖を下げる作用があるホルモン「インスリン」が効かなくなってしまう状態のことです。内臓脂肪の蓄積(肥満)によって起こり、糖尿病の原因になります。体重の増加とともに血糖値が上がっている人はインスリン抵抗性が出てきている可能性があります。

更年期障害

過去のレビュー研究において更年期障害に対してヨガが有効である可能性は指摘されていたものの、その根拠は不十分とされてきました。最近の5つのRCTを含むレビュー研究によれば、ヨガは更年期に伴うイライラや不安感といった精神症状をわずかに軽減する作用があるものの、顔のほてり・動悸や頻尿・性交痛といった泌尿器・生殖器系の症状については改善が見込めないことがわかりました。メンタルヘルスについていい影響を与えることはあっても、女性ホルモンを整えるといった作用は限定的と考えられます。「更年期障害にはヨガ」といった記事をみつけたら、疑ってかかりましょう。

筋骨格系

筋骨格系の機能や痛み

ヨガと筋骨格系の働きについて検討したメタアナリシスにおいて、ヨガは腰痛・リウマチ・頭痛などによる慢性的な疼痛症状を軽減することが示されています。より大きな研究が今後期待されるものの、慢性的な腰痛・肩こりといった症状を抱えている人にヨガが良い影響を与えることは間違いなさそうです。また慢性腰痛についていえば、従来の治療的エクササイズ(リハビリ)よりもヨガの方が効果が大きいとする論文もあります。
椎間板ヘルニアや腱板断裂といった疾患を見逃さないことは勿論大切ですが、原因のはっきりしない腰痛や肩こりを慢性的に抱える人にとってヨガは効果的な解決策になるといえます。

特定の疾患

がん

いくつかのメタアナリシスにおいて、ヨガはがん患者さんの不安・抑うつ・ストレスといった精神症状を軽減させることが分かっています。また、それに伴ってQOL(幸福度)についても向上することがわかりました。がん自体に対して治療効果があるわけでないことは重要ですが、精神的な安定を得るためにヨガは一つの解決策となりそうです。

てんかん

ヨガがてんかん患者に対する好影響を及ぼすかを示す研究は1つのRCTをはじめいくつか散見されますが、てんかんに対して良い効果があることは示されていません。てんかんに対する効果についてはエビデンスがないといっていいでしょう。

まとめ

ヨガはメンタルヘルスだけでなく、フィジカルヘルスにもいい影響をもたらします。高齢者が無理なく身体機能を維持し、若い健康な方が心肺耐久力を高めるのにも役立ちます。また、自律神経を整える作用はストレス社会で交感神経優位になりがちな私たちにとって、非常に意味があるものです。慢性的な腰痛や肩こりに対して効果が示されていることも重要です。一方、血圧や呼吸機能、ホルモンへの影響や特定の病気の治療効果についてはまだエビデンスがないことに注意しましょう。
ヨガについての研究はまだ始まったばかりですが、すでに複数の好影響が医学的に示されています。今後はさらに多くの人を対象にして、ヨガの流派や被験者の健康状態を細分化した信頼度の高い研究が積み重ねられていくことが期待されます。
ヨガが効果を示すと分かっている症状(不安や慢性疼痛など)で悩んでいる方は、是非ヨガを始めてみてくださいね。

<主な参考文献>

Effects of yoga on mental and physical health: a short summary of reviews.  Arundt Bussing, et al.

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