他の病気を忘れてない?〜不要不急の外出自粛で注意すべき点とは〜

新型コロナウイルス感染症(COVID19)が猛威をふるう中、日本でも多くの地域において不要不急の外出を自粛するよう呼びかけられています。ほとんどの企業ではリモートワークを導入し、ミーティングもオンラインで行うのが当たり前になりました。夜も居酒屋で飲むことはなく、最近ではZoomなどのオンラインツールを使って飲み会を企画する人が増えています。人が集まるレジャー施設は軒並み閉館を決断し、休日であっても外に出かける機会はほとんどなくなりました。つまり、朝から晩まで家で過ごすことが当たり前になりつつあります

不要なヒトとヒトの接触を避けることで集団感染が抑制され、新型コロナウイルス感染拡大のスピードを緩めることが期待されます。しかし一方で、長期に及ぶ外出自粛は感染症以外の点で健康に悪影響を及ぼす可能性があることに注意が必要です。この記事では医師の視点から、外出を控えることで人々の心身の健康に起こりうる影響を整理し、どんな対策を打てるのか考察していきます。

外出自粛で生活にどんな変化が起こるのか?

まずは外出を自粛し自宅での生活が主になる中でどのような変化が起こるのか、因数分解して考えてみましょう。勿論住んでいる地域や同居人・ペットの有無によって大きく状況は異なりますが、一般的に「①食事の変化」「②運動の変化」「③人間関係の変化」「④日光照射量の減少」が多くの方に起こります。この記事ではこれら4つの変化によって想定される健康リスクを事前に把握することで、適切な対策を予防的にとることを目的とします。1つ1つ見ていきましょう。

①食事の変化

生活環境が変化すると、それに伴って食事量や食事内容が変化することは多いです。またアルコール摂取量や間食の頻度も変化するかもしれません。重要なのは、自分の食事に意識を向けて過食やバランスの乱れを防ぐことです。

a, 食事量の増加

今まで会話していた時間や通勤していた時間がなくなることで、食事時間が相対的に増え、食事量も増える可能性があります。また外食では一人当たりの量が決まっていますが、家庭だと無制限に食べてしまうというケースもあります。外出せず運動量が低下することでインスリン抵抗性が生じ、これに連鎖して満腹ホルモンであるレプチンの効きが悪くなる状態(レプチン抵抗性)を引き起こし、過食がより起こりやすくなります。エネルギー摂取量が長期に渡って増加すれば、肥満をきたし、高血圧・脂質異常症・糖尿病といった生活習慣病を引き起こすリスクが高まります

インスリン抵抗性とは?
インスリン抵抗性とは、身体の中で唯一血糖を下げる作用があるホルモン「インスリン」が効かなくなってしまう状態のことです。内臓脂肪の蓄積(肥満)によって起こり、糖尿病の原因になります。体重の増加とともに血糖値が上がっている人はインスリン抵抗性が出てきている可能性があります。

b, 食事量の減少

痩せ身志向の女性では、一人で食事をする機会が増えることでかえって食事量が減少する可能性があります。過度なエネルギー不足は女性ホルモン周期の乱れや筋力低下をきたす可能性があります。外出を控えることで消費カロリーが減少することも確かですが、最低限のエネルギーを確保することを忘れないようにしましょう。

c, 塩分摂取量の増加

特に一人暮らしの男性において、インスタント食品や加工食品の摂取量が増加することで塩分摂取量が増加してしまう可能性が懸念されます。皆さんご存知の通り、塩分摂取量が増加すれば血圧が上昇し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。ただし普段毎日のように会食をこなしている方が薄味での自炊を試みるようになれば、むしろ減塩が進む可能性もあります。大切なことは、食事の変化によって塩分量が変わっているかに意識を向けることです。

d, アルコール摂取量の増加

普段から自宅で飲酒をする方は、飲み始める時間が前倒しになったり、大きなボトルを際限なく飲める環境にあったりすることで、飲酒量が増加してしまう可能性があります。飲酒量は増えれば増えるほど、動脈硬化やがんによる死亡率が上昇します。ただし友人との飲み会でしか飲酒をしないという方では、むしろアルコール摂取量が低下し今回の件を機に健康になる可能性もあります。大切なのは、環境の変化によってアルコール量が大きく変わっていないか、注意を向けることです。

e, 間食の増加

オフィスでは決まったワークタイムと周囲の人の目が過度な間食の抑止力になりますが、自宅では常に冷蔵庫が徒歩圏内でいつでもあらゆる食料品が手に入る状況になり、人目を気にせずモノを口にできる状況となります。間食の増加は肥満のリスクを高め、血糖値の上昇を頻回にきたすことで糖尿病のリスクも高めると考えられます。間食をとる場合には、ナッツやヨーグルト、ドライフルーツなど、身体にいい影響をもたらす間食を用意しておくことが解決策になるかもしれません。

②運動の変化

外出自粛を徹底すると、あらゆる活動量が低下します。iPhoneを使用している方はまず、「ヘルスケア」アプリで歩数の変化を確認してみましょう。運動量の低下は心身ともに様々な病気のリスクを高めます。意識的にワークアウトの時間を維持するよう努めましょう。

a, 有酸素運動量の減少

外出ができなくなると、必然的にウォーキング・ランニングといった有酸素運動ができなくなります。運動不足は肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病の原因になります。また、大腸癌や乳癌といった一部のがんの発症リスクを高めます。また軽い有酸素運動は疲労の軽減を促す可能性も指摘されており、運動量の低下は「動いていないのに疲れている」という状態を作り出すかもしれません。今回のCOVID19流行に伴い通勤文化自体がなくなる可能性もあり、防げる病を防ぐためにはより意識的に運動機会をつくることが大切になります。

b, 筋力トレーニング量の減少

今までスポーツジムで筋トレを行っていた方は、外出自粛に伴いトレーニング頻度が低下しているかもしれません。筋力トレーニングは身体機能を維持するだけでなく、メンタルの状況を整えうつ病を予防する効果もあります。筋力トレーニングの減少は骨折など怪我のリスクを増加させ、肥満やうつ病のリスクを高めます。自重トレーニングを覚えるたり、自宅にトレーニング環境をつくったり、柔軟に対応してトレーニング習慣を継続しましょう。

c, 座位時間の増加

移動がなくなる分、覚醒中の座位時間は無意識的に増加すると考えられます。座位時間の増加が早期死亡率を高めることはいくつかの研究で指摘されており、運動不足とは独立したリスクになる*と考えられています。つまり、運動を意識的にした上で、座位時間を意識的に減らすことが大切です。また低容量ピルを内服している方では副作用により、深部静脈血栓症(ふくらはぎに血栓という血の塊ができる病気)のリスクが増加しています。長期の座位時間はさらに血栓形成を助長してしまうため、定期的に立ち上がるようにするなどの対策をとりましょう。もし長時間座った状態から立ち上がった時、胸の痛みや息苦しさがあったらすすぐに医師に相談しましょう(足でできた血栓が肺に飛んでしまい、肺塞栓という病気を起こすことがあるためです。いわゆる「エコノミークラス症候群」)。

③人間関係の変化

あまり意識しないポイントですが、労働環境や休日の過ごし方の変化によって人間関係も変化しています。環境の急激な変化はメンタルに影響を与え、適応障害やうつのリスクを高めます。自分が何かストレスを受けてないか、観察してみましょう。

a, 職場の人との接点減少

リモートワークの推進によって、普段顔を合わせていた上司や同僚とコンタクトをとる機会が減少します。もともとの関係値によってはむしろストレスが軽減するケースもありそうですが、特に一人暮らしの方では会話機会の減少によりメンタルに変調をきたす可能性があります。接触頻度が減ったことで自分がどう感じているかを観察し、ストレスになっている場合にはオンラインで積極的にコミュニケーションをとるなど、対策を講じましょう。

b, 家族との接点増加

外出を自粛することで、同居家族との接点はむしろ増加します。家族関係が良好かどうかによって異なりますが、環境の変化によるストレス増大がないか注意しましょう。また感染リスクの高い環境にやむを得ず出かけている家族がいる場合には、家族内感染を防ぐため、帰宅時の手洗い・消毒や有症状時のマスク着用を徹底しましょう。今までなかなか一緒に過ごせなかった家族にとっては貴重な時間になるかもしれないので、プラスに作用するといいですね。

④日光照射量の減少

日中外に出ることがなくなるため、必然的に日光を浴びる機会が減少します。普段何気なく浴びている日光も、私たちの健康維持に寄与しています。どのようなことが起こりうるのか、予め知っておくことが大切です。

a, ビタミンD産生量の低下

ビタミンDはCaの吸収を助ける作用があり、高齢者の骨粗鬆症・骨折予防については明確なエビデンスがあります。またエビデンスレベルは高くないものの上気道感染を抑制する可能性を指摘した研究もあり*、COVID19流行の中で密かに注目を集めています。ビタミンDは鮭・マグロなどの魚類やキノコなどに含まれる他、日光に暴露されることで産生されます。今回の外出自粛によって日光由来の分のビタミンDが不足するため(窓越しに日光を浴びても産生されません)、食品やサプリメントによる補充が必要になるかもしれません。特に、母乳で育てられている幼児や高齢者では、ビタミンDの補充を検討しましょう。ただし当たり前ですが、用法用量を破った過剰摂取は避けましょう。

b, セロトニン分泌量の低下

日光照射量の減少は、体内のセロトニンレベルの低下と関連することが分かっています。そしてこのセロトニンレベルの低下が季節性うつ病(もともと冬季に多い)のリスクを高めるとされています。不要不急の外出は避けるべきですが、感染対策をした上で少しでも日光を浴びながら歩く機会を作ることは、メンタルの維持にも必要です。

c, メラトニン分泌リズムの乱れ

メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、体内リズムを整える働きがあります。日光や室内光の影響を受けて分泌量が調整されている(光を浴びると分泌が抑制される)おり、室内で暗めの環境で過ごすことが増えると分泌が促進されるため、日中の眠気や睡眠リズムの乱れを引き起こす可能性があります。眠るときはしっかり部屋を暗くする、朝起きた時はしっかり光を浴びる、など、できる範囲で睡眠リズムを乱さないことが重要です

まとめ

確かに新型コロナウイルスは恐ろしいもので、適切な感染拡大防止策をとることが不可欠です。しかし、感染症以外にも人の命を奪っている病気は山のようにあります。人類は歴史的に、感染症は恐れるにも関わらず、ゆっくりと進行する生活習慣病を侮る傾向があります。今回の外出自粛によってどのような健康問題が起こりうるのか予め知り、自分の状態をよく観察し、大きな問題を防ぎましょう。

<主な参考文献>

Sitting time and mortality from all causes, cardiovascular diseases, and cancer. Katzmarzyk PK et al.

The role of vitamin D in prevention and treatment of infection. Cameron F et al.

 

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