そのサプリ本当に必要?『免疫力を高める』の正体とは

誰もが一度は聞いたことのある言葉、『免疫力』。サプリメントやエステを提供する企業にとって、『免疫力を高める』というのはパワーワードになっています。最近では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「免疫力を高めるべきだ」という論調が盛り上がってきました。(免疫力を高めるために、)「腸内細菌を整えよう!」「ビタミン〇〇を取ろう!」「身体を温めよう!」など様々なことが提案されています。

しかし、そもそも『免疫力』とはなんのことを言っているのでしょうか?免疫力が高まったことを、どのように証明できるのでしょうか?免疫力を高めるという商品やサービスを利用する価値はあるのでしょうか・・・?

結論から言うと、『免疫力を高める』という商品やサービスは大概信頼に値しません。少なくとも、それらを試す前にやるべきことは沢山あります。ましてや『〇〇を食べて免疫力を高めてがんを治す』などと謳う商品や本があったら、それは論外です。

この記事では医師の視点から『免疫力とは何か』整理するとともに、世間一般に言われている『免疫力を高める』という行為について医学的に紐解いていきます。

『免疫力』の正体

免疫力とは、感染症と戦う力

免疫力は、『細菌やウイルスなどの病原体や異物を攻撃し、体を守る防御能力』のことです。最近になってこそ癌に対する免疫療法などが話題になっていますが、一般的には免疫は『病原体の感染から身体を守る仕組み』と考えられています。この記事では、『免疫力=感染症と戦う力』と考えましょう。

ちなみに免疫の異常で起こる病気は、免疫力の低下による感染症だけではありません。甲状腺機能亢進症(バセドウ病)や関節リウマチといった『自己免疫疾患』は、本来異物ではない自分自身を攻撃してしまうことによって起こります。花粉症や金属アレルギーは、本来問題のない異物を過剰に攻撃することで起こっています。つまり、『攻撃する対象を間違える』という免疫の異常もあるわけです。これらをまとめて免疫力を高めることで改善すると謳う記事すら散見されますが、明らかに間違っています。

『免疫力を高める』のを証明するのは難しい

『免疫力を高める』とはどういうことでしょうか?『高める』というからには、何らかの測定できる指標があって欲しいものです。しかし免疫は非常に複雑なシステムで成り立っており、何かの細胞が増えたとか、数値が上がったという形で単純に評価することができませんよって、『免疫力を高める』というエビデンスのある成分や商品など何一つないのです。

例えば某乳酸菌の販売会社のホームページでは『この乳酸菌を飲んだ人ではIgAが上昇しているから、免疫力がアップしている』と結論づけています。しかし、他の種類の抗体(IgGやIgM)や細胞性免疫(B細胞やT細胞)を見ずに1種類の抗体や免疫細胞が増えただけで感染症のリスクがどれだけ下がったとは、絶対に言えません。財布を10個使い分けている人がいたとして、1個の財布の中身が少し増えたのだけを見て『資産が増えた』と勘違いしているようなものです。

一方、感染症にかかりやすくなる(免疫力が下がる)状態というのは確かに存在します。よって感染症と戦う力を高めるという意味において、これらの状態(病気)を予防することはある意味『免疫力を高める』ことになるかもしれません。

『免疫力が下がる』病気はある

では、『免疫力が下がる』のはどのようなケースでしょうか?医学の世界ではこのような感染症にかかりやすくなっている状態を『易感染性』と表現します。言葉そのまま、「感染しやすい状態」という意味ですね。

具体的には、糖尿病・腎不全・肝硬変・がん(悪性腫瘍)・免疫不全症(無ガンマグロブリン血症等)などの基礎疾患を持つ方、怪我や術後によって皮膚・粘膜のバリア機能が落ちている状態の方、ステロイド・抗がん剤・免疫抑制剤など免疫を抑える治療を受けている方などがいます。例えば『糖尿病』も『術後』も免疫力低下のリスクがあるため、術後の感染症を防ぐために、糖尿病患者が手術を受ける前にはしっかりと血糖値をコントロールしてから手術を行う、といった工夫が病院ではなされています。

少なくとも、易感染性を引き起こす病気を予防することは、感染症のリスクを下げることに繋がります。免疫力アップを謳う商品を購入する前に、これらの病気のリスクを高める生活習慣(過食やアルコール多飲、喫煙など)を行なっていないかを見直しましょう。

世の中に溢れる『免疫力を高める』の問題点

では病気を何も指摘されていない健康な人では、免疫力が上がったり下がったりすることはないのでしょうか?勿論、そんなことはないと思います。ただし免疫力というのはシンプルに測定することができないため、評価ができないのです。評価ができない限り、『免疫力を高める』と謳うことは、真実だと証明できません。

一方、免疫力とライフスタイルの関連については多くの研究がなされてきています。例えば現状の研究では、慢性的なストレス等によって起こる交感神経の活性化(自律神経の乱れ)が免疫システムに影響を与えるらしいということまで分かっており、リンパ球やT細胞(免疫細胞の一部)の働きが抑制されることが示されています。またストレスホルモンとしても有名な『コルチゾール』が増加することで免疫機能が抑制されることも推察されています(病気の治療でステロイドを使っている人が易感染性を示すのと近い状況になります)。

しかしそれでも、ストレスの高い人で感染症リスクが高まっていると十分に証明できた研究はありません。よって、慢性的なストレスを避けることで免疫力の低下を防げると推測することはできますが、十分なエビデンスはないのです。今後は、自律神経系と免疫機構が全体的にどのような関係にあるかの詳しい研究が期待されます。

「ストレスを避ける」以外にも巷では様々な免疫アップ法が謳われています。ここでは特によく目にする3つの方法についてみてみましょう。

腸内細菌を整えると免疫力が上がる?

ヨーグルトは腸内環境を整える食材の1つ

『善玉菌を摂ると免疫力が上がる』『キムチやヨーグルトを食べると腸内細菌が整って免疫力がアップする』という話は誰もが一度は聞いたことがあると思います。しかし、このことを示すエビデンスはありません。腸管は免疫を司る臓器でもあり、腸内環境の乱れはバリア機能の低下や免疫機構の低下を起こすかもしれませんし、腸内環境の悪化によって自律神経系が乱れれば免疫機能が影響を受けるかもしれません。しかし、あくまで「可能性」のお話です。

あなたの腸内環境が感染症リスクの高い状態にあるかは誰も示すことができませんし、目の前にあるサプリメントを摂ることによって機能が改善するかどうかも全く分かりません。明らかに免疫機能が下がっていると分かっている糖尿病の方が、食事や運動の習慣を変えずに免疫力アップの為にと腸内細菌サプリを飲むというのは、明らかに理にかなっていないのです。

身体を温めると免疫力が上がる?

免疫系が身体に侵入した病原体と戦う時、確かに私たちの体温は上昇します。『発熱』は感染症の存在を疑う重要なサインです。しかし、体温を外から上げれば免疫力が上がるのかというと、これは全く次元の違うお話で、体温上昇が免疫力を向上させる(感染症リスクを下げる)とするエビデンスはありません。ただし、38-40度の刺激の大きくないお湯につかることで自律神経が整い、免疫システムが良好になる「可能性」はあります。湯船に浸かる程度は試してもいいかもしれませんね。

一言Memo

よく『温泉は疲労にいい』といって熱いお湯に長湯している方を見かけます。しかし、適温を越えた熱いお湯に浸かると身体にとって強い刺激となり、酸化ストレスが生じます。「現代人の疲労の原因は酸化ストレス」なので、熱い温泉に入る行為はむしろ疲労感を増大させます。一時的に「気持ちいい」と感じるのは、身体に強い刺激が加わることでβエンドルフィンなどの快楽物質が生じて疲労がマスクされているためです。疲れが取れているわけではないことに注意しましょう。

ビタミンを補うと免疫力が上がる?

『免疫力を高めるためにビタミンCを取ろう』というお話もよく聞きます。しかし、ビタミンCの習慣的摂取によって免疫細胞の一部機能が良くなる可能性は指摘されているものの、感染症リスクを下げるという十分なエビデンスはありません。少なくとも、風邪になってからビタミンCをとっても予防・早期改善効果はないことが分かっています。(抗酸化作用によって酸化ストレスを軽減し、自律神経が整うことで、間接的に免疫機能を高める可能性はありますが、現状は推測の範疇を超えません)

一方、ビタミンDについては上気道感染症の感染リスクを下げる可能性が指摘されています。特に、外に出ることが少なくビタミンDの産生が減っている方では、ビタミンDの補充が感染症リスクを下げるかもしれません。

正しく感染症リスクを下げる方法

ではどうすれば、巷で言うところの『免疫力を高める』を実現できるのでしょうか?つまり、感染症リスクを下げることができるのでしょうか?防げる不幸をなくすために、一人一人が感染症にならないための知識を身につけることは非常に大切です。ここでは医学的に正しい感染症の予防法を押えましょう。

病原体の侵入を防ぐ

手指消毒は重要な感染症対策の1つ

まず、病原体が身体に入ってくるまでの感染経路を遮断することが大切です。上気道感染症や肺炎を起こす細菌やウイルスの侵入・増殖を防ぐために、手洗い・うがいや手指消毒、咳エチケットを徹底しましょう。性行為を行うときは、コンドームを着用しましょう。他人の血液・体液が自分の傷口や粘膜に触れるような状況を避けましょう。

病原体ごとに感染経路は異なりますが、病原体への接点をなるべく無くし、感染経路を遮断することが感染症の重要な予防法になります。COVID19について言うなら、なるべく他人との接点を無くし、(特に自分の顔に触れる前の)手洗い・手指消毒やうがいを徹底すること。症状がある場合にはマスクをするのは勿論、そもそも家で安静にしていること。こういった基本的なことが最も大切です。

易感染性を起こす病気を防ぐ

野菜や生の果実は糖尿病リスクを下げる

病原体が身体に侵入してしまったとしても、実際に感染症を発症するかどうかは一人一人の健康状態によって異なります。糖尿病や肝硬変といった、感染症にかかりやすくなってしまうと分かっている病気を予防しましょう。そのためには、食べ過ぎやアルコールの飲みすぎを防ぐ、タバコを吸わない、といった生活習慣の改善が不可欠です。

今回のCOVID-19のように、いつどんな感染症が流行するかは誰も予測することはできません。しかし、確かに生活習慣病を抱える人や喫煙者では重症化しやすいということが分かっています。つまり日々の習慣が、いざという時の感染症への対抗力を決めるのです。がん、心筋梗塞、脳卒中といった生活習慣病を予防することは勿論ですが、日々の積み重ねは感染症の発症リスク・重症化リスクにも影響するのです。

ワクチンを打つ

ワクチンは最も信頼できる感染症予防の方法

医学的に最も確かな感染症予防法が、ワクチンです。毎年打つインフルエンザワクチンが有名ですが、麻疹・風疹ワクチンやHPVワクチン、HBVワクチンなど大切なワクチンが沢山あります。自分が感染しないことは勿論、周りの人に感染させないためにも、必要なワクチンをしっかり打ちましょう。

今回のCOVID-19流行を受けて、多くの人がワクチン開発を待ち望んでいます。同じ様に今ある多くのワクチンも、過去に沢山の命を奪った感染症を防ぐために開発されてきました。

しかし残念なことに、特に日本においてはメディアの悪影響もあり、子宮頸がん予防のためのHPVワクチンの接種が進んでいません。インフルエンザワクチンも「自分は大丈夫」と打たない人が多いです。妊婦の感染によって「先天性風疹症候群」という大きな病気を起こしてしまう『風疹』についても、未だワクチンを打っていない方が多いのが現状です。

今回の感染症流行をきっかけに、ワクチンの有難さを今一度理解し、予防接種が進むことを期待したいですね。

まとめ

さて、今回は『免疫力を高める』の正体は『感染症リスクを下げる』であるという視点で、世の中にある『免疫力を高める』と謳う商品の問題点について指摘するとともに、感染症のリスクを下げるために私たちができることを整理しました。特定の商品やサービスによって『免疫力を高める』ことはできません(エビデンスはありません)が、私たちが感染症予防のためにできることは確かにあります。是非正しい知識を身につけて、この歴史的な苦難を一緒に乗り越えましょう。

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